お香は数千年にわたり人々に親しまれ、その用途や形態は長らく固定されてきた。しかし、乾燥前のお香は粘土のように柔らかく、自由に形を変えることができる。この特性を活かして、「時間の贈り物(The Present of Time)」では、造形や原料が燃焼に与える影響を探求し、お香が灰へと変わる過程をデザインに取り入れ、文化的な歴史を背景に新たな価値を生み出している。
かつて時間を測る道具であったお香は、現在では正確さや効率ではなく、ゆったりとした時間の流れと生命の豊かな体験をもたらすものとして新たな価値を持つようになった。
蕾の形をしたお香は、灯すと早春の梅のように艶やかな光を放ち、葉の形をしたお香は、秋の紅葉のように鮮やかに燃え、やがて枯れていく。春には花が咲き誇り、冬には静かに雪が降り積もる。
春夏秋冬の移りゆく中で、すべてのいのちは衰え、朽ち果て、やがて再生へと繋がる。お香の伝来の歴史は、禅の思想と深く結びついている。「今、この瞬間」に意識を向ければ、「Present」は「今」という時間からの「贈り物」でもある。
※会場にて本作品のお線香を販売する予定です。