私は制作のなかで、自然の作用を受け入れ、人の意図と自然や画材がもたらす偶然の痕跡を呼応させることを試みています。ときにアトリエを離れ、和紙を地面に広げ、石や枝を文鎮にし、風や雨、雪といった現象に応答しながら筆をとります。その行為のなかで、自己と自然との対話を繰り返し、自らも自然の一部であることを確かめています。
一昨年、私はドイツに一ヶ月滞在し、制作や展示を行いました。街並みやデザインに堅牢さや整然さ、合理的な美意識を感じた一方で、人々の自然や環境への関心の高さに触れたことは印象深い経験でした。街と自然は明確に区画され存在しているように見えながらも、自然へ思いを寄せる時間が人々の生活に静かに息づいていることを知りました。
今回Rolf Benzの家具に触れたとき、精巧な技術や素材へのこだわりとともに、普遍的なデザインや自然を思わせる色彩に、私が滞在中に感じた土地の空気が重なって思い起こされました。
日本の絵画は本来、屏風や襖とともに生活空間を彩り、暮らしの中に根づいてきました。その意味で今回、生活を想起させる空間に作品を展示できることは、絵画を改めて「生活に溶け込む存在」として見つめ直す機会になると考えています。家具や絵画が人々の営みの一部となり、時の層を刻みながら、その余韻を響かせるような存在となればと思っています。